中小企業診断士2次試験(事例Ⅰ)の過去問分析②(時系列の把握)

事例Ⅰ

事例Ⅰでは、与件文の中に企業の歴史が時系列で示されることが多く、「現在の課題」や「〇〇年頃の強み」といった形で、特定の時間軸を意識した設問が頻出します。

そこで、ここ4年間の与件文をもとに、時系列情報を整理・分析しました。企業にとってプラスの事象(需要増加や売上向上など)赤マーカーマイナスの事象(売上低下や競争激化など)青マーカー、そして事業承継や組織再編といった大きな転換点黄マーカーを引いてあります。

2021年度2022年度2023年度2024年度
1960年:家族経営の印刷会社として創業1970年代初頭:苺の栽培と販売を開始するため施設園芸用ハウスを建設1960年代後半:先代経営者が蕎麦店をのれん分け開業。蕎麦を自前で打ち人気。出前中心でリピート客増加1975年:トラック1台から物流サービス企業を創業。営業区域規制あり、1顧客貸し切り対応で収益性が低い
1970年代から:オフセット印刷機が普及し始める1970年代後半~80年代初頭:苺の需要に対応するためハウスを増設1980年代:店舗周辺の宅地化が進み、来店客・出前件数が増加創業後10年頃(1985年頃)取扱量増加に伴い2カ所目の営業所および、運送部を設置。地域トラック運送企業と連携して協力会を組織
1990年長男が2代目として事業承継、印刷工場や印刷機を売却しファブレス化を開始1980年代後半売上高が順調に拡大1980年代末売上高が1億円に達し、店舗規模や駐車場も拡大1990年:参入規制緩和により新規参入事業者の急増価格競争激化。地元密着型の高品質輸送サービスを志向。
2000年代:デザインと印刷コンテンツのデジタル化に経営資源を投入、プログラミング専門知識を持つ人材を採用1990年代後半:贈答品高級苺の需要低下に伴い、作り方にこだわった野菜の栽培を開始1990年代半ば:近隣に競合が多数現れ、売上高が前年を下回る2000年:倉庫管理事業に参入、自社で倉庫を保有し流通加工や温度・湿度管理サービスを提供。
2020年3代目が事業承継、デザイン部門を発足させ、ウェブデザイナーを2名採用1990年代後半以降:現経営者の弟(常務取締役)が入社2000年代初頭売上高が5千万円にまで低下。現経営者(先代の長男)が入社し様々な施策を実施2000年頃:食品スーパーX社から輸送業務を請け負い、保管・流通加工能力を高める。
現在(2021年)新規事業の案件獲得難、既存顧客への新規需要創造が課題。2000年代前半:有機JASとJGAPの認証取得、地元菓子メーカーと連携し洋菓子を共同開発2005年売上高が7千万円に改善するも、離職率が高く、人材不足に陥る2010年頃:県外から引き合いが増加。創業経営者の長女がA社に入社し、首都圏市場開拓プロジェクト発足。
 2000年代半ば:有機野菜の販売業者から事業譲渡される。株式会社化(法人化)2008年:総花的なメニューの見直し、出前をやめて来店のみとし蕎麦に資源を集中2011年:プロジェクトチームが解散し首都圏事業部設立
 法人化後:大手中食業者と直接取引する機会を得て安定的収益をもたらす2010年:先代が経営から離れ、現経営者に事業承継。店内を改装しファミリー層への絞り込み。商品の高付加価値化。2020年長女が2代目経営者に就任
 2010年代半ば自社工場を設置するとともに、地元の農協と契約し倉庫を借りる承継後5年間(~2015年ころ):接客・厨房・管理の3部体制を構築し、従業員定着率向上売上高が前年度を上回って推移。2020年以降:受注管理や在庫管理の高度化要請があり、経営者の長男による情報システム部が設立。自社開発・内製化への取り組み。
 ここ数年:直営店、食品加工分野へ展開し事業を多角化2015年以降安定的に利益を確保できる体制を確立近年:首都圏で展開する大手スーパーZ社から県内進出にあたっての案件が持ち込まれる十分な対応ができず
 昨年(2021年頃)常務の娘(A社後継者)が入社し直営店を担当コロナ禍2020~2022年頃):営業自粛期間に開発した持ち帰り用半調理製品販売でしのぎ、店舗営業再開後売上高を伸ばす2024年:創業経営者の助言に基づき配置転換実施(経営幹部を専務取締役、長男を運送部と倉庫部の統括マネージャーに配置)
 現在(2022年):現経営者と常務ともに60歳代後半を迎え経営陣が高齢化。後継者への世代交代を検討中。2023年近隣の蕎麦店X社から事業譲渡されるも、X社の従業員から退職に関する相談が出ている現在(2024年):大手3PL事業者との競争激化、外部委託先の運送事業者の人手不足(物流の2024年問題)などの課題有り。

この図表から、近年の事例Ⅰには明確な3つの傾向が見られます。

1. 時系列情報の急増と長文化

2022年度を境に、年号を伴う歴史的イベントの記述量が著しく増加しています。これは、表面的な強み・弱みを拾うだけでなく、企業の成長・変遷のプロセスを深く理解する能力が求められていることを意味します。

2. 「転換点」の複数配置

事業承継やM&Aといった「転換点」(黄色)が、物語の中盤と終盤などに複数回配置されるようになりました。それぞれの転換期において、「経営者がどのような意思決定を下し、それが組織に何をもたらしたか」を問うことが、設問の重要なテーマとなっています。

3. 「V字回復と未来への課題」という一貫した構成

多くの事例で、「過去の苦境()を乗り越え、現在の成功()を築いたが、現在および将来には新たな課題()が待ち受けている」という物語構造が採用されています。これは、企業の持続的成長のために、次の一手として何をすべきかを問いかける、出題者からのメッセージと言えるでしょう。

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