【令和5年(2023年) 事例Ⅳ】第3問 意思決定会計(NPV・デシジョンツリー) 解説

事例Ⅳ

今回は令和5年(2023年)の第3問を取り上げ、意思決定会計(NPV・デシジョンツリー)の問題について、どのような思考プロセスで解答に至るのかを具体的に解説します。(あくまでも、「私ならこのように解答する」という参考例として記載していますので、その旨ご承知おきください。)

問題の確認

令和5年(2023年)の問題はこちらに掲載されています。

問題文の確認

D社が研究開発してきた男性向けアンチエイジング製品の生産に関する設備投資の意思決定をテーマとした問題です。令和4年(2022年)に続いて問題文自体が非常に長文で、条件も多いため、限られた時間内に解答するのは非常に難しい問題となっています。

以下は、設問文のポイントを落とさないように記載するマークの例です。

解答案

設問1について

問題の概要

  • 年間販売量が好調な場合(10,000個)と不調な場合(5,000個)のそれぞれのシナリオにおける正味現在価値(NPV)を計算します。
  • 次に、販売量の発生確率(好調:0.7、不調:0.3)を考慮した正味現在価値の期待値を算出し、その結果に基づいて投資を実行すべきか否かを判断します。

基本的な考え方

好調時のNPVと、不調時のNPVをそれぞれ計算し、その後に発生確率をもとにNPVの期待値を算出します。設問要求の「万円未満は四捨五入」と「マイナスの場合は数値の前に△」という条件を忘れずに解答しましょう。

具体的な計算

(1) 好調の場合(販売量10,000個)

好調時の損益計算書を作ります。単位は「万円」です。

  • 売上高:単価(1万円)×10,000個=10,000万円
  • 変動費:売上高(10,000万円)×0.4=4,000万円
  • 固定費:2,200万円
  • 減価償却費:11,000万円÷5年=2,200万円
  • 特別利益:5年後に残価ゼロの資産を処分、処分価額=11,000万円×0.1=1,100万円
1年度期首1年度2年度3年度4年度5年度
売上高10,00010,00010,00010,00010,000
変動費-4,000-4,000-4,000-4,000-4,000
固定費-2,200-2,200-2,200-2,200-2,200
減価償却費-2,200-2,200-2,200-2,200-2,200
特別利益1,100
税引前利益1,6001,6001,6001,6002,700

キャッシュフローを計算します。

  • 1年度に運転資本増加分、5年度に運転資本減少分をそれぞれ加味
  • 5年度に特別利益(資産売却益)に関連するキャッシュフローを調整
1年度期首1年度2年度3年度4年度5年度
税引前利益1,6001,6001,6001,6002,700
法人税-480-480-480-480-810
減価償却費
戻入れ
2,2002,2002,2002,2002,200
特別利益
戻入れ
-1,100
運転資本-800800
営業CF2,5203,3203,3203,3203,790
投資額-11,0001,100

各年度のキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計し、NPVを以下のように計算します。

  • 好調時NPV = -11,000 + 2,520×0.926+ 3,320×(0.857+0.794+0.735) + (3,790+1,100)×0.681 = 2,585.13万円
(2) 不調の場合(販売量5,000個)

不調時の損益計算書を作ります。単位は「万円」です。好調時と異なる部分を赤い字にします。

  • 売上高:単価(1万円)×5,000個=5,000万円
  • 変動費:売上高(5,000万円)×0.4=2,000万円
  • 固定費:2,200万円
  • 減価償却費:11,000万円÷5年=2,200万円
  • 特別利益:5年後に残価ゼロの資産を処分、処分価額=11,000万円×0.1=1,100万円
1年度期首1年度2年度3年度4年度5年度
売上高5,0005,0005,0005,0005,000
変動費-2,000-2,000-2,000-2,000-2,000
固定費-2,200-2,200-2,200-2,200-2,200
減価償却費-2,200-2,200-2,200-2,200-2,200
特別利益1,100
税引前利益-1,400-1,400-1,400-1,400-300

キャッシュフローを計算します。

  • 1年度に運転資本増加分、5年度に運転資本減少分をそれぞれ加味
  • 5年度に特別利益(資産売却益)に関連するキャッシュフローを調整
1年度期首1年度2年度3年度4年度5年度
税引前利益-1,400-1,400-1,400-1,400-300
法人税42042042042090
減価償却費
戻入れ
2,2002,2002,2002,2002,200
特別利益
戻入れ
-1,100
運転資本-400400
営業CF8201,2201,2201,2201,290
投資額-11,0001,100

各年度のキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計し、NPVを以下のように計算します。

  • 不調時NPV = -11,000 + 820×0.926+ 1,220×(0.857+0.794+0.735) + (1,290+1,100)×0.681 = △5,702.17万円
(3)NPV期待値の計算

好調時の確率0.7、不調時の確率0.3より期待値を求めます。

NPV期待値 = 好調時NPV(2,585.13)×0.7 + 不調時NPV(△5,702.17)×0.3 = 98.94万円

NPV>0になるため投資を行うべきである。

解答

(1) 2,585万円

計算過程:

NPV = -初期投資額 + 各年度のCF×現価係数 + 設備の処分価額×5年目の現価係数で求める。

NPV = 初期投資(-11,000) + 1年目CF(2,520)×0.926+ 2~4年目CF(3,320)×(0.857+0.794+0.735) + 5年目CF合計(3,790 + 1,100)× 0.681 = 2,585.13万円

(2) △5,702万円

(3) 99万円

投資を行うべきである

設問2について

問題の概要

  • 初年度末に2年度以降の販売量が明らかになるという前提のもとで、設備投資の実行を1年遅らせた場合の正味現在価値を計算します。
  • この際、初年度固定費の回避や、設備の耐用年数が4年になるなどの条件が追加されます。
  • 設問1と設問2(1)の計算結果を比較し、初年度期首に投資を即時実行するのと、2年度期首まで1年遅らせるのとでは、どちらが有利であるかを根拠となる数値を示して説明します。

基本的な考え方

「1年度末に2年度以降の販売量が判明する」という条件下での意思決定となるため、好調時(10,000個販売可能時)のみ事業を継続し、不調時(5,000個販売可能時)は投資を見送り事業を行わないことが可能となります。

よって、この設問では、好調時(10,000個)のNPVを計算し、不調時(5,000個)は投資を実行しないため、そのシナリオのキャッシュフローは全てゼロ(NPV=0)として期待値を計算します。

なお、販売開始が1年遅延することで、投資時期減価償却費が(設問1)に対して変化することに注意が必要です。

具体的な計算

(1) 好調の場合(販売量10,000個)

好調時の損益計算書を作ります。単位は「万円」です。

  • 売上高:単価(1万円)×10,000個=10,000万円
  • 変動費:売上高(10,000万円)×0.4=4,000万円
  • 固定費:2,200万円
  • 減価償却費:11,000万円÷4年=2,750万円
  • 特別利益:4年後に残価ゼロの資産を処分、処分価額=11,000万円×0.1=1,100万円
1年度期首1年度2年度3年度4年度5年度
売上高10,00010,00010,00010,000
変動費-4,000-4,000-4,000-4,000
固定費-2,200-2,200-2,200-2,200
減価償却費-2,750-2,750-2,750-2,750
特別利益1,100
税引前利益1,0501,0501,0502,150

キャッシュフローを計算します。

  • 2年度に運転資本増加分、5年度に運転資本減少分をそれぞれ加味
  • 5年度に特別利益(資産売却益)に関連するキャッシュフローを調整
1年度期首1年度2年度3年度4年度5年度
税引前利益1,0501,0501,0502,150
法人税-315-315-315-645
減価償却費
戻入れ
2,7502,7502,7502,750
特別利益
戻入れ
-1,100
運転資本-800800
営業CF2,6853,4853,4853,955
投資額-11,0001,100

各年度のキャッシュフローを現在価値に割り引いて合計し、NPVを以下のように計算します。

  • 好調時NPV = -11,000×0.926 + 2,685×0.857+ 3,485×(0.794+0.735) + (3,955+1,100)×0.681 = 886.065万円
(2) 不調の場合(販売量5,000個)

この場合、(設問1)の計算からもわかる通り、NPVはマイナスとなるため、投資を見送る。

  • 不調時NPV=0万円
(3)NPV期待値の計算

好調時の確率0.7、不調時の確率0.3より期待値を求める。

NPV期待値 = 好調時NPV(886.065)×0.7 + 不調時NPV(0)×0.3 = 620.2455万円

(設問1)のNPVと比較すると、設問2NPV(620.2455)-設問1NPV(98.94)=521.3055万円大きい値になるため(設問2)の投資条件の方が有利であることがわかる。

解答

(1) 620万円

計算過程:

好調時のNPVと不調時のNPVを計算し、発生確率をもとにNPVの期待値を求める。

好調時NPV = 初期投資(-11,000)×0.926 + 2年目CF(2,685)×0.857+ 3~4年目CF(3,485)×(0.794+0.735) + 5年目CF合計(3,955 + 1,100)×0.681 = 886.065万円
不調時は投資を見送るためNPVは0となる。
よって、NPV=886.065×0.7 + 0×0.3=620.2455万円

(2)

2年度期首に投資し、好調時のみ事業継続することにより、1年度期首投資案に対してNPVが521万円向上する。

本日は、以上となります。

コメント