【令和6年(2024年) 事例Ⅳ】第3問 意思決定会計(NPV) 解説

事例Ⅳ

今回は令和6年(2024年)の第2問を取り上げ、意思決定会計(NPV)の問題について、どのような思考プロセスで解答に至るのかを具体的に解説します。(あくまでも、「私ならこのように解答する」という参考例として記載していますので、その旨ご承知おきください。)

問題の確認

令和6年(2024年)の問題はこちらに掲載されています。D社が鶏肉のスライス加工機械を旧機械から新型のスライサー(新機械)に更新する投資案件に関する採算性分析の問題です。

設問1・2は条件さえ読み取れれば基本的な計算のみで対応できます。複利現価係数が1,2,7,9年度の分だけ掲載されているところもヒントになっていそうです。設問3は応用問題となっているため完全に解答を導くのは難しいと思いますが、計算過程で中間点を獲得したいところです。

以下は、設問文のポイントを落とさないように記載するマークの例です。

解答案

設問1について

問題の概要

  • 初年度および2年度のキャッシュフロー増加額(初期投資と旧機械売却収入を除く)の計算をします。

基本的な考え方

  • 初年度と2年度の損益計算書からキャッシュフローの増加額を計算します。その際、与えられている営業利益には減価償却費の増加分が含まれている点に注意が必要です。
  • 旧機械の売却に際して発生する特別損失や、運転資本の増加についても考慮します。
  • 初期投資や旧機械の売却収入を除く」という設問要求も見逃さないようにしましょう。

具体的な計算

初年度と2年度の損益計算書を作ります。単位は「万円」です。

1年度期首1年度2年度3年度9年度
営業利益
増加分
3070
特別損失
変化分
-110
税引前利益
変化分
-8070
法人税
変化分
24-21
税引後利益
増加分
-5649

キャッシュフローを計算します。

  • 減価償却費の変化分は、新機械(540万円÷9年=60万円/年)と旧機械(240万円÷12年=20万円/年)の差額である40万円/年です。これは現金支出を伴わない費用のため、キャッシュフロー計算では税引後利益に加算(戻し入れ)します。
  • 2年度末時点における運転資本の変化分は更新前より40万円増となるため、1年度末時点(25万円増)と比較すると、2年度中には新たに15万円の運転資本が増加したことになります。
1年度期首1年度2年度3年度9年度
税引後利益
増加分
-5649
減価償却費
変化分戻入
4040
特別損失
変化分戻入
110
運転資本
変化分
-25-15
CF6974

解答

(a) 69(万円)

(b) 74(万円)

設問2について

問題の概要

  • 新機械の試験的導入における正味現在価値(NPV)を計算することが求められています。

基本的な考え方

  • 問1に続き、3年度から最終9年度までのキャッシュフローを計算します。
  • 7年間の年金現価係数を上手く活用することでスムーズに計算することが可能です。

具体的な計算

3年度以降の損益計算書を作ります。(2年度と同じ税引後利益になります。)

1年度期首1年度2年度3年度9年度
営業利益
増加分
30707070
特別損失
変化分
-110
税引前利益
変化分
-80707070
法人税
変化分
24-21-21-21
税引後利益
増加分
-56494949

キャッシュフローを計算します。

1年度期首1年度2年度3年度9年度
税引後利益
増加分
-56494949
減価償却費
変化分戻入
40404040
特別損失
変化分戻入
110
運転資本
変化分
-25-1540
旧機械
売却収入
70
新機械
投資額
-540
CF-470697489129

以上より、NPVを計算します。

なお、3年度~9年度のCFは89万円とし、9年度の運転資本変化分40(万円)は別途加算することで7年分の年金現価係数を活用して計算します。

  • NPV = 初年度期首(-470) + 初年度期末CF(69)×0.917 + 2年度CF(74)×0.842 + 3~9年度CF(89)×5.033×0.842+運転資本(40)×0.460 = 51.143954(万円)

解答

(a) 51.14(万円)

(b)
新規機械置き換え後のキャッシュフローの現在価値から初年度期首の投資額を引いてNPVを求める

NPV = 初年度期首(-470) + 初年度期末CF(69)×0.917 + 2年度CF(74)×0.842 + 3~9年度CF(89)×5.033×0.842+運転資本(40)×0.460 = 51.143954(万円

設問3について

問題の概要

  • 市場調査の結果、営業利益の予測が60%の確率で予測通り、40%の確率で予測の7割にとどまることが判明した場合の、新機械の試験的導入における正味現在価値の期待値を計算し、投資の可否を判断することが求められています。

基本的な考え方

  • (設問2)で求めた予想通りのケースと、営業利益が7割になるケースのNPVをもとに、発生確率をかけたNPVの期待値を求めます。
  • 予想通りのケースは(設問2)ですでに求められているため、営業利益が7割になるケースだけ追加で求めればよいという事になります。
  • なお、市場調査費用(30万円)は、埋没費用(サンクコスト)と考えて今回のNPVには加味しないことに注意しましょう。

具体的な計算

(1) 予想通りのケース

設問1で求めた51.143954(万円)

(2) 営業利益が7割になるケース

損益計算書を作ります。(「予想通りのケース」と異なる部分を赤い字にします。)

1年度期首1年度2年度3年度9年度
営業利益
増加分
21494949
特別損失
変化分
-110
税引前利益
変化分
-89494949
法人税
変化分
26.7-14.7-14.7-14.7
税引後利益
増加分
-62.334.334.334.3

キャッシュフローを計算します。

1年度期首1年度2年度3年度9年度
税引後利益
増加分
-62.334.334.334.3
減価償却費
変化分戻入
40404040
特別損失
変化分戻入
110
運転資本
変化分
-25-1540
旧機械
売却収入
70
新機械
投資額
-540
CF-47062.759.374.3114.3

以上より、NPVを計算します。

なお、3年度~9年度のCFは74.3万円とし、9年度の運転資本変化分40(万円)は別途加算することで7年分の年金現価係数を活用して計算します。

  • NPV = 初年度期首(-470) + 初年度期末CF(62.7)×0.917 + 2年度CF(59.3)×0.842 + 3~9年度CF(74.3)×5.033×0.842+運転資本(40)×0.460 = -29.3060002(万円)
(3) NPVの期待値を求める
  • NPV期待値 = (1)予想通りのケース(51.143954)×0.6 + (2)利益7割のケース(-29.3060002)×0.4 ≒ 18.9640(万円)
  • NPV期待値がプラスなので、この投資案は実行すべきである。

解答

(a) 18.96(万円)

(b) 実行すべきである

(c)

予測通りのケースのNPV×0.6 + 利益7割のケースのNPV × 0.4で期待値を求める。

(1)設問1より、予測通りのケースのNPV=51.143954
(2)利益7割のケースのNPV=初年度期首(-470) + 初年度期末CF(62.7)×0.917 + 2年度CF(59.3)×0.842 + 3~9年度CF(74.3)×5.033×0.842+運転資本(40)×0.460 = -29.3060002(万円)
よって、NPV期待値=(1)×0.6+(2)×0.4≒18.9640(万円)

本日は、以上となります。

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