原価計算の種類
原価計算には総合原価計算、個別原価計算、標準原価計算があります。
- 総合原価計算
- 大量生産される製品の原価を計算する方法。製造工程全体の総原価を生産量で割り、一製品あたりの平均原価を算出します。目的は、大量生産品のコスト管理や利益計算を効率的に行うことです。
- 標準原価計算
- あらかじめ設定した標準原価を基準に、実際原価との差異を分析する方法。目的は、原価のコントロールや無駄の削減、経営の効率化を図ることです。
- 個別原価計算
- オーダーメイド製品やプロジェクトごとの原価を計算する方法。案件ごとに直接費用を集計して算出します。目的は、特定の受注やプロジェクトの収益性を正確に把握することです。
今回はこの中から「総合原価計算」についてみていきます。
総合原価計算
総合原価計算では、月初の仕掛品と当月投入された材料を基に、当月の完成品に使用された材料および月末の仕掛品を算出します。ここで、「仕掛品」とは、すでに生産に着手しているが完成していない製品、またはそれに費やされた原材料や賃金などの原価を指します。
この考え方により、当月の完成品に使用された材料を正確に算出できるため、大量生産品の製造原価を正確に把握することが可能です。これを、ボックス図で書くと以下のようになります。

次に、いくつか考慮することがありますので順にみていきます。
「平均法」と「先入れ先出し法」
原価計算において、月初仕掛品と当月投入量をどのような割合で当月の完成品に反映させるかを考える際、代表的な方法として「平均法」と「先入れ先出し法」があります。
- 平均法
- 月初仕掛品と当月投入量を同じ割合で(つまり平均的に)完成品と月末仕掛品に振り分ける方法です。
- 先入れ先出し法
- 先に投入されたものから当月の完成品に使用するという考え方です。具体的には、月初仕掛品が優先的に当月完成品に使用され、月末仕掛品には当月投入量が割り当てられます。
計算例
以下の条件で「平均法」と「先入れ先出し法」の計算を行います。
月初仕掛品:数量100個、費用50千円
当月投入量:数量500個、費用550千円
当月完成品:数量550個
月末仕掛品:数量50個

- 平均法
- 月初仕掛品と当月投入量で平均単価を算出します。
平均単価 =(50(千円)+550(千円))÷(100個+500個)=1(千円/個) - 完成品と月末仕掛品の個数によりそれぞれににかかった費用を算出します。
完成品 =1(千円/個)× 550個 = 550(千円)
月末仕掛品 = 1(千円/個)× 50個 = 50(千円)
- 月初仕掛品と当月投入量で平均単価を算出します。
- 先入れ先出し法
- 先に投入したほうが先に使われるという事は、当月投入量がすべて月末仕掛品になっている、と考えられますので、当月投入量の単価から月末仕掛品の費用を算出します。
当月投入量単価 = 550(千円)÷ 500個=1.1(千円/個)
月末仕掛品 = 1.1(千円/個)× 50個=55(千円) - あとは月初仕掛品と当月投入量による総費用と、月末仕掛品との差分で当月完成品の費用を算出します。
総費用=(50(千円)+550(千円))= 600(千円)
完成品 = 600(千円)- 月末仕掛品55(千円)= 545(千円)
- 先に投入したほうが先に使われるという事は、当月投入量がすべて月末仕掛品になっている、と考えられますので、当月投入量の単価から月末仕掛品の費用を算出します。
加工進捗度の考え方
これまでの計算では、「直接材料費」などのように、月初に100%投入されるものと仮定していました。しかし、「加工費」に関しては、仕掛品が月初や月末時点で何%完成しているかを示す「加工進捗度」を考慮する必要があります。
計算例
- 月初仕掛品の進捗度:70%の場合、数量100個 × 0.7 = 70個分の完成度
- 月末仕掛品の進捗度:60%の場合、数量50個 × 0.6 = 30個分の完成度
完成品の数量510個は変わらないため、当月投入量は以下のように逆算されます。
- 当月投入量=完成品数量−月初仕掛品の進捗度+月末仕掛品の進捗度=510個−70個+30個=470個

これらを平均法で総合原価計算を行うと次のようになります。
- 平均法
- 月初仕掛品と当月投入量で平均単価を算出します。
平均単価 =(40(千円)+500(千円))÷(70個+470個)=1(千円/個) - 完成品と月末仕掛品の個数によりそれぞれににかかった費用を算出します。
完成品 =1(千円/個)× 510個 = 510(千円)
月末仕掛品 = 1(千円/個)× 30個 = 30(千円)
- 月初仕掛品と当月投入量で平均単価を算出します。
例題(平成29年度 第8問)
平成29年度 第8問を見ていきます。

以下のように解いていきます。
直接材料費については、そのままの個数を用いて計算できます。
一方、加工費については、月初仕掛品および月末仕掛品の加工進捗度が50%であるため、個数を調整します。また、全体の計算に合わせて当月投入量は700個とみなされます。

- 直接材料費
- 月初仕掛品と当月投入量で平均単価を算出します。
平均単価 =(200(千円)+1,000(千円))÷(200個+800個)=1.2(千円/個) - 月末仕掛品の個数により費用を算出します。
月末仕掛品 = 1.2(千円/個)× 400個 = 480(千円)
- 月初仕掛品と当月投入量で平均単価を算出します。
- 加工費
- 月初仕掛品と当月投入量で平均単価を算出します。
平均単価 =(100(千円)+700(千円))÷(100個+700個)=1(千円/個) - 月末仕掛品の個数により費用を算出します。
月末仕掛品 = 1(千円/個)× 200個 = 200(千円)
- 月初仕掛品と当月投入量で平均単価を算出します。
- 月末仕掛品原価(総額)= 480(千円)+200(千円)= 680(千円)
以上より、答えは「イ」となります。