配当割引モデルと資本コスト

財務・会計

配当割引モデル

配当割引モデルによる理論株価を求めるには以下のような式で求めます。

\(\text{理論株価}(\text{円}) = \frac{\text{次期の配当額}(\text{円})}{\text{期待収益率} – \text{配当成長率}}\)

例えば、次期の配当額が100円/株、期待収益率3%、配当成長率1%とすると、当該株の理論株価は以下のように計算できます。

  • 100円 ÷(0.03-0.01) = 5,000円

ここで分子が次期の配当額であることに注意が必要です。例えば、上記の例についても「次期の配当額」ではなく「今期の配当額」であった場合は、以下のように配当成長率を加味して次期の配当額を計算する必要があります。

  • 100円×1.01 ÷(0.03-0.01) = 5,050円

資本コスト

「期待収益率」とは、株主がその株式に投資した金額に対して期待するリターンを指します。この期待収益率は「自己資本コスト」と呼ばれることもあり、投資の費用対効果を示します。

資本コストには、自己資本コストのほかに借入金などの「負債コスト」があります。倒産時には、借入金(負債)の返済が株式(自己資本)より優先されます。株式は投資時点で倒産リスクが織り込まれており、返済されない可能性が高いと見なされ、一般には株式投資の方が負債よりリスクが高いため、自己資本コストは、負債コストよりも高くなります。

つまり、投資家は返済リスクの高い株式への投資に対して、それに見合う高いリターンを期待するため、自己資本コストは負債コストよりも高く設定されるのです。

企業全体の資本コストを評価する際には、これらの自己資本コストと負債コストを加重平均して算出する場合があります。これを「加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital:WACC)」といい、以下の式で求められます:

\(\text{WACC} = (\text{自己資本コスト} \times \frac{\text{自己資本}}{\text{総資本}}) + (\text{負債コスト} \times (1-\text{税率}) \times \frac{\text{負債}}{\text{総資本}})\)

例題(平成24年度 第16問)

平成24年度 第16問はこれらの知識を組み合わせる問題になっています。

以下のように解いていきます。

  1. 自己資本と発行済み株式数から、1株当たりの理論株価を求める
    1株当たり理論株価=自己資本(5,000万円) ÷ 発行済み株式数(100万株) = 50円/株
  2. 配当割引モデルより、自己資本コスト(期待収益率:r)を求める
    理論株価(50円)= 次期の配当額 (5円×1.1)÷期待収益率rー配当成長率(0.1)
    よって、r = 0.11 + 0.1 = 0.21
  3. 加重平均資本コスト(WACC)の公式を使って求める
    WACC=自己資本コスト(21%) × (自己資本(5,000万円)÷ 総資本(10,000万円)負債コスト(4%) ×(1 – 税率(0.4))×(負債(5,000万円)÷ 総資本(10,000万円)
       
    = 10.5% + 1.2% = 11.7%

よって、「」が正解となります。

特に注意すべきなのは1.で自己資本から1株当たりの理論株価を導く点と、2.で次期の配当額を算出する点です。いろいろな知識を組み合わせないといけない良問だと思います。