今回は令和4年(2022年)の第1問を取り上げ、どのような思考プロセスで解答に至るのかを具体的に解説します。
問題の確認
令和4年(2022年)の問題はこちらに掲載されています。
問題文の確認
まずは、問題文から確認しましょう。(設問1)ではD社と同業他社の比較で、「優れている」指標を「2つ」、「課題を示す」指標を「1つ」挙げ、さらに「D社」の指標を計算し、「小数点第3位を四捨五入」して答えることが求められています。なお、「生産性に関する指標」を少なくとも1つ挙げることになっています。これは過去の問題には見られなかった視点のため、注意が必要です。また、(設問2)では、「明らかに劣っている点」について「80字」で述べる必要があります。これまでの問題では、「D社全体の状況」をまとめる問題が多かったので、設問要求を間違えないようにしましょう。

財務諸表(B/S、P/L)のチェック
事例企業の貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)を確認します。
- 問われているのは「D社」の数値なので、それを間違えないように○を書きます。
- 当座資産に加えるべきものとして、「現金預金」「売上債権」のところに印をつけておきます。
- B/Sの「流動資産」「固定資産」「流動負債」「固定負債」「純資産」の区切り線を引きます。
- P/Lの各利益の下にアンダーラインを引きます。
以下はマークした状態の例です。

経営状態の傾向を把握
与件文を読む前に、まずは数値データから両社の経営状況の概観を掴み、仮説を立てます。この仮説が、後の与件文読解の「当たり」をつける精度を高めます。今回の問題は桁数が多いので全体像がつかみにくいと思います。このようなときは、上位桁のみで大まかな計算をするのが効果的です。
収益性: 売上高はD社が約103千円、同業他社が約115千円とD社の方が少なくなっています。売上総利益はD社が約61千円、同業他社が約36千円とD社の方が多いため、売上高に占める割合はD社の方が多いことがわかります。営業利益以降の利益もすべてD社の方が多いため収益性はD社の方が優っているようです。
効率性: 売上高はD社の方が1割程度少ない程度ですが、有形固定資産はD社が約16千円、同業他社が約8千円とD社の方が2倍程度となっていることがわかります。これにより、有形固定資産回転率はD社の方が劣っていると考えます。また、棚卸資産(商品)についてはD社の方が同業他社の4割程度になっているため、棚卸資産回転率はD社の方が優れています。
安全性: 流動比率や当座比率は一般に100%を超えると安全性の面で問題ないと考えられていますが、流動比率や当座比率は、安全性の目安である100%を両社とも超えており、特にD社が優れています。一方、自己資本比率は明らかにD社の方が劣っていると判断できます。
生産性指標は従業員数が必要なため、ここでは計算せず次に進みます。
この段階で、以下のような解答の方向性が見えてきます。
- 優れている指標: 「収益性」と「(棚卸資産の)効率性」、「短期安全性」に関する指標
- 劣っている指標: 「(有形固定資産)の効率性」と「(自己資本に関する)安全性」に関する指標
この段階ではどの指標を採用するかはまだ確定できないので、次のステップに進みます。
与件文
立てた仮説が正しいかを確認するため、与件文を読み込みます。以下がその概要です。
D社は1990年代半ばに創業した、総合自動車リサイクル業者です。近年は事業を順調に拡大し、海外販売網の展開や事業多角化を目指しています。従業員数は、D社が53名、同業他社が23名です。
解答案
設問1について
まず、「生産性」に関する指標を何にするかですが、「販売費及び一般管理費のその他は含めない」と問題文で指定されていることから、付加価値生産性(労働生産性)が求められていると考えます。
- 付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費 + 地代家賃 + 租税公課
- 付加価値生産性 = 付加価値額 ÷ 従業員数
という計算式より、以下が求められます。従業員数は事例文に書いてある値を使用します。
D社:(営業利益15,002 + 人件費22,307 + 減価償却費2,367 + 地代家賃3,114 + 租税公課679)÷従業員数53名 = 43,469 ÷ 53 ≒ 820.17万円
他社:(営業利益11,327 + 人件費10,799 + 減価償却費425 + 地代家賃4,428 + 租税公課559)÷従業員数23名 = 27,538 ÷ 23 ≒ 1197.30万円
以上より、D社の方が同業他社より劣っていることがわかります。
よって、この指標は劣っている指標として③の欄に記載することになりますので、これをもとに①②の優れている指標を選択していきましょう。
| (a) | (b) | ||
| ① | 売上高総利益率 | 59.59 | (%) |
| ② | 棚卸資産回転率 | 33.41 | (回) |
| ③ | 付加価値生産性 | 820.17 | (万円) |
売上高総利益率
- 売上高総利益率 = (売上総利益61,652÷売上高103,465)×100 ≒ 59.59(%)
- 選定理由:収益性はどの指標も優れているため、代表値としてこの指標を挙げました。
棚卸資産回転率
- 棚卸資産回転率=売上高103,465 ÷ 棚卸資産3,097 ≒ 33.41(回)
- 選定理由: 多面性を考慮すると、短期安全性指標を挙げることも考えられますが、同業他社も十分に高い水準であるため、より差が明確な棚卸資産回転率を採用します。
付加価値生産性
- 選定理由: 本セクション冒頭の計算の通り、D社の課題を示す指標として適切であるため。
設問2について
明らかに劣っている点を80字以内で述べます。与件文には直接的な記述が少ないため、財務データに基づき、付加価値生産性を分解して構造的な原因を探ります。
付加価値生産性=(付加価値額/売上高) × (売上高/有形固定資産) × (有形固定資産/従業員数)
= 付加価値率 × 有形固定資産回転率 × 労働装備率
D社:付加価値率42.01% × 有形固定資産回転率6.12回 × 労働装備率318.79万円
他社:付加価値率23.92% × 有形固定資産回転率13.72回 × 労働装備率365万円
この分解から、D社は高い付加価値率を誇るものの、有形固定資産回転率と労働装備率が同業他社に劣後していることが、生産性の低さの要因だと分かります。
D社は、付加価値生産性が劣っている。パーツ販売など幅広い事業活動により付加価値率は高いが、有形固定資産回転率や労働装備率が同業他社より劣っている事が原因である。
以上となります。


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